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受給者の同意がなくても企業年金を減額は可能か

時事通信の伝えるところによると、東電が損害賠償資金を資金を捻出するため現役社員と退職者向けの確定給付年金(企業年金)の削減措置を検討しているそうです。
「東電が将来の支払いを見込む退職金や年金などの連結退職給付債務は毎年1兆円前後で推移しており、債券などで運用している年金資産6000億円と、毎年度計上する引当金でほぼ全額を賄う形となっている。関係者の試算では、仮に確定給付年金の支給水準を1割引き下げた場合、最大1000億円の資産を取り崩せる上、退職給付制度の維持に要するコストも年間100億円程度カットできる」とのことです。

JALの時も話題になった企業年金ですが、現役の従業員については、企業の存続がかかっているので雇用維持や労働条件への配慮などにより労使交渉により減額へ向けた解決が図りやすいものと考えられます。

問題は既に退職し、年金を受給しているような元従業員の年金の減額です。外部積立型の年金制度であれば、本来は給付の原資となる年金資産は本体企業から隔離され、その年金資産から給付を受けられるので会社が倒産しようが受給額を減額されるいわれはないと考えられます。
しかしながら、実態としては年金資産の積立不足が生じていることが多く、不足額は母体企業が拠出したり現役世代の負担が重くなったりしています

外部積立方式の年金制度には、厚生年金基金と確定給付型企業年金があります。
厚生年金基金の場合は、給付減額を含めて規約の変更には厚生労働大臣の認可が必要とされています。さらに、受給者の年金減額の認可基準として、通達で以下の三つが示されています。
①事前の十分な説明と意向確認の実施
②変更について全受給権者等の3分の2以上の同意
③希望する受給者等に対して最低積立基準額相当額の一時金支給

また、確定給付企業年金の場合も規約の変更には厚生労働大臣の認可等が必要とされ、受給権者等の給付減額に関する認可等は概ね上記の厚生年金の基準に準じたものとされています。

受給者の同意がない年金減額の有効性を争った判例としては、早稲田大学事件(東京高裁 平成21年10月29日判決)があります。

この事件の概要は以下のとおりです。
早稲田大学では、運用益の確保が困難な状況が続き、不足責任準備金の額も増加するなど、年金財政の悪化に歯止めがかからないことから、平成14年10月に労使双方から選出される委員によって構成される年金委員会に対して、年金制度の見直し及び財政基盤の確立のための施策を諮問したところ、同委員会は、平成15年7月に以下を主な内容とする答申を行いました。
①20年後の積立比率80%を目標とする
②予定利率を4.5%から2.5%に引き下げる
③給付額を35ないし40%削減するが、移行期間を設ける
④加入者及び大学の拠出率を引き上げ、追加拠出額を毎年6ないし9億円とする

大学は上記の答申をうけ、給付額は平成16年度から段階的(16年度は15%、17年度は10%、18年度は10%)に減額し、平成18年度以降は現行比35%減とする、追加拠出については平成15年度から8億5000万円を追加拠出するという案を決定した。

この大学案にもとづき、教職両組合、加入者、受給者を対象に説明会等により周知を図り、その過程で受給者の意見等を考慮して、大学案の修正を重ね、受給者の3分の2以上の同意を得た上、最終案として平成16年11月12日に、下記事項を内容とする年金規則を改定し、同日から施行した。
①普通年金及び遺族年金の受給額を35%減額する
②経過措置を設けること(詳細は省略しますが、一律7%減から始まり、段々減額幅を大きくし、平成20年6月支給分から一律21%ないし35%減額としています)
③現行の予定利率を年4.5%から2.5%に引き下げる
④拠出金は、通常の拠出金のほか平成15年度から毎年8億5000万円を大学が繰入れ、その2分の1相当額は、各期手当削減の一部を充当する

この改定により最大35%の給付削減がなされると、教員の平均受給額は約195万円、職員の場合は約165万円となり、公的年金を含めた場合の平均は、教員で約495万円、職員で約463万円となる。

大学はこの年金規則の改正に基づき、年金給付の減額をおこなったが、年金受給者161名は、本件年金改定は無効であるとして訴えを提起した。(減額されても十分な金額のような気はしますが・・・)

この裁判において、1審では大学が敗訴します。
主な理由は以下のとおりです。

①本件年金制度は、教職員が在職中被告(大学)に一定額を拠出し、20年以上在籍した後に退職した教職員らに一定額の年金を支払うものであり、年金を支払うことを内容とする契約関係と認められ、また、その給付は退職金としての性格を有するものであり、年金支給額は契約の重要な要素であり、被告は年金契約者が承諾しない以上、年金支給額を減額することはできない

②本件年金制度は、将来においても存続することを前提とした制度であり、そのためには被告の存続が前提となるため、被告において年金支給債務を履行することが困難であるなど年金支給額を減額するについてやむを得ない事情があり、かつ、受給権者に対して相当な手続きが講じられた場合には年金支給額を減額することも承諾するしていると解することができるが、大学の財政状況(格付け会社からの「AA+」の評価など)からすると、最終的に給付額を最大35%も減額することに対して、大学側にやむを得ない事情があったとは考えられない

大学側は上記の判決を不服として控訴し、2審では勝訴します。
主な理由は以下の通りです。

①本件年金契約は、多数の契約関係者を合理的かつ画一的に処理し、各加入者を平等に取り扱うために定められている年金規則に一律に規定されており、その年金規則にある制度見直し規定は、給付額についても変動があることを前提としていると解される。

②財政方式は事前積立方式が採用されているが、年金規則には年金基金に不足が生じた場合の負担ルールが定められておらず、本件年金制度においては自己完結的に財政を運用することが前提となっていることからすると、大学は、収入の大部分を占める授業料等を年金財政補てんのために転用すべき筋合いはない。

③本件年金改定は、年金財政悪化によるもので必要性が認められ(平成14年3月末時点で、責任準備金573億円に対して積立不足が393億円となっていた)、その内容も相当性を有し、受給者の3分の2を超える同意を得ているものであり、これを争う受給者に対しても有効である。

東電は100%減資により国有化されたJALと異なり、国有化されずにいく気配が漂っているものの、政府の方針一つという感じがするので、年金受給中といえども同意せざるを得ないでしょう。減額に同意するのが受給できる金額が最も多くなる手段な気がします。

ちなみに早稲田大学事件の詳細は、「年間労働判例命令要旨集 平成21年版 (労政時報別冊)」に載っています。

日々成長。

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