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取締役会の専決事項とされる「多額の借財」の「多額」はどのレベル?

会社法362条4項において以下の事項は取締役会の専決事項と定められています。

  1. 重要な財産の処分及び譲受け
  2. 多額の借財
  3. 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
  4. 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
  5. 第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
  6. 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備

今回は会社法第362条4項2号に掲げられている「多額の借財」の「多額」はどのレベルのことをいうのかについてです。

1.そもそも「借財」とは何か?

まず「借財」の内容について確認しておくと、”「借財」とは、金銭消費貸借による借入れのほか、社会通念上それと同視すべき金銭債務負担行為を指す。具体的には、銀行融資等の借入れはもちろんのこと、約束手形の振出し、債務保証、保証予約、ファイナンス・リース、デリバティブ取引等が「借財」に含まれ得る”とのことです(「取締役会付議事項の実務〔第2版〕」 商事法務 p53)。

上記で「約束手形の振出し」が一例として掲げられていますが、金銭消費貸借による借入れと同視できるという前提があるので、いわゆる金融手形を意味していると考えられます。

2.「多額」のレベル感は?

何をもって「多額」というかは会社法では特に定められていません。要は、会社にとって重要であるかどうかによって「多額」であるかどうかが決まるという相対的な概念のものとなっています。

過去の裁判例においても、”「その会社の総資産及び計上利益等に占める割合、当該借財の目的及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべき」という考え方が確立している”(「取締役会付議事項の実務〔第2版〕」 商事法務 p54)とのことです。

「多額」のレベルが相対的なものであるというのは、様々な規模の会社があることからすれば当然ともいえ、運用上は会社独自の規程等を作成し取締役会の付議基準を定めていることが一般的だと思われます。

後で問題とならないようにするためにはこの基準値を低めに設定しておけばよいですが、一方で機動性が害されるので基準値が低すぎるというのも問題があります。では、裁判等で問題となった場合に、どのレベルで「多額」と判断されるのかですが、この点について前掲の参考書籍において以下の判例が取り上げられていました。

①取締役会の承認決議を経ないで2億円の借入がなされた事案(東京地判平成24年2月21日判時2161号120頁)
 
借入金額2億円が資本金の17.9%、総資産の約5.7%、経常利益の約33.3倍に相当すること、元利金の弁済負担が年間売上の約10%程度に相当すること、借入れの目的が関連会社に対する転貸融資目的であり、関連会社から確実な担保を徴求した形跡もないこと等の事情を総合的に考慮して、当該借入れが「多額の借財」に該当するとした。

②ツムラ・幸福銀行事件(東京地判平成9年3月17日判時1605号141頁)-代表取締役が取締役会決議を経ずに関連会社の10億円の債務について連帯保証予約をした事案

主債務の金額が直近の資本金の約7.75%、総資産合計額の約0.51%、負債合計金額の約0.75%、経常利益の約24.6%であったことのほか、借入れの目的が関連会社の創立記念事業にかかわるものであったこと、取締役会規則では1件5億円異常の債務保証が取締役会の付議事項とされてりうこと等の事情を総合的に考慮して、当該債務保証予約が「多額の借財」に該当すると判断した

資本金に対する水準は考慮要素としていずれも取り上げられていますが、社歴が長く剰余金が潤沢な会社も多々あることからすれば、資本金の金額に対する割合は考慮要素しての重要は高くないのではないかと思います。総資産に対する割合は会社の規模に対する重要性を判断する上で、合理的なものの一つだと思われますが、ツムラの事案では総資産額合計の約0.5%程度にすぎないものであっても、他の要素次第で「多額」と判断され得るという点は注意が必要です。

また、経常利益に対する割合も上記2例でともに取り上げられていますが、利益に対する割合も一見合理的にみえるものの、実際に返済するのが大変かどうかはキャッシュフローの状況によるので、経常利益に対する割合よりEBITDAとの比較などによるのが妥当で、あまり重視されるべきものではないと思われます(総合的といいつつも、実際裁判所がどの指標を重視したのかは不明ですが・・・)。

一方で、①の事案で掲げられている年間売上の約10%程度というのは、売上高1億円の会社で1000万円、10億円の会社で1億円ということなので、おおよその会社で重要と考えるレベルの金額ではないかと感じます。

ツムラの事案では、示されている指標からすると、会社にとって間違いなく重要といえるものなのかは疑問ですが、内規で定められている基準値は会社が重要だと考える基準値を示したものであるはずなのので、それを超えていたということであれば、それは重要だと判断されるのは仕方がないと思われます。

なお、「会社の事業のために通常行われる取引かどうかも考慮される」とされておりますので、継続的な借り換えなのか、純粋な新規借入なのかによって会社にとっての重要性が異なることもあり得ます。

どのレベルが重要というのは一概に決められないわけですが、通常の状況下において会社が重要と考える借財が頻繁に生じることも考えにくいので、上記のような裁判例を踏まえた上で、このくらいであればたまに取締役会に付議しなければならない事案が生じるというレベルを逆算で考えるというのが実務的なのかなという気がします。

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